Vol.6|関係性をデザインする
日本の伝統工芸の世界には、人間国宝や著名な作家はもちろん、多くの優れた作り手がいます。 そして、各地で何十年にもわたり技術を磨き続けてきた職人の多くは、必ずしも広く知られているわけではありません。しかし、そうした数多くの職人たちが、伝統工芸の技術や文化を支えているのです。 Wearable Heritage Projectは、その積み重ねられた時間と技術、そして仕事に向き合う姿勢に深い敬意を抱いています。 私たちが大切にしたいのは、一つひとつの作品が、どの職人の、どの技術によって支えられているのか、その関係性を丁寧に伝えていくことです。 織職人、染職人、漆職人、組紐職人、水引職人、そしてデザイナー ──それぞれが培ってきた専門性が重なり合い、一つの作品へと結実します。 Wearable Heritage Projectは、その関係性そのものをデザインするプロジェクトです。 誰が、どのような技術で作品に関わったのか。一人ひとりの仕事と役割を丁寧に伝えることで、作品の背景にある多様な専門性と、その関係性が生み出す価値を社会へ届けていきたいと考えています。
Vol.5|なぜ私は、このプロジェクトをファッションの文脈で語れなくなったのか
私は長年、ファッションの世界で仕事をしてきました。そのため、このプロジェクトを始めたときも、ごく自然にファッションの文脈の中で考えていました。伝統工芸を使った服をつくる。最初はそういう認識でした。ところが、プロジェクトを進める中で、少しずつ違和感を覚えるようになりました。 その違和感の正体が、最近ようやく見えてきました。 ファッションの世界では、「何が新しいのか」が問われます。新しいデザインなのか。新しい素材なのか。新しいシルエットなのか。つまり、価値は「何をつくったか」に置かれます。 一方で、私がこのプロジェクトを通して考えていたのは、「新しさはどこにあるのか」「なぜそれが新しいのか」ということでした。 西陣織も博多織も友禅も漆も水引も、技術そのものは何百年も前から存在しています。 決して新しいものではありません。 では、新しさはどこにあるのか。 それは、それらを結びつける関係性です。 工芸と工芸。 伝統と現代。 日本と世界。 技術と物語。 これまで別々に存在していたもの同士を結び、違う文脈に置くことで、新しい意味が生まれる。 私が面白いと感じていたのは、まさにそこでした。 そして、その「なぜ」の奥には、二つの思いがあるように感じています。 一つは、 まだ見たことのない景色を見たい ということ。 伝統工芸を単なる素材として使うのではなく、それぞれが本来の役割や文化的背景から一旦離れ、 再編集したとき、どんな世界が立ち上がるのか。 私はその景色を見てみたいのです。 もう一つは、 職人に継続的に仕事が入る仕組みをつくりたい ということです。 伝統工芸の世界では、多くの職人が高い技術を持ちながらも、 仕事の継続や後継者の問題を抱えています。 私は工芸を「守る」だけではなく、 現代社会の中で新しい価値を生み出しながら循環する仕組みをつくりたいのです。 そう考えたとき、 このプロジェクトはファッションというよりも、 文化を編集する行為に近いと感じました。 新しい服をつくることが目的なのではありません。 文化と文化の間に新しい関係性を見出し、新しい意味を生み出すこと。 そして、その意味を未来へ手渡していくこと。 そんなとき、ある海外の美術館のキュレーターの方から、 プロジェクトのこうした思想にについて「とてもクールだ」という言葉をいただく機会がありました。 もちろん、その一言ですべてが証明されるわけではありません。 けれど、自分が感じていた違和感は間違っていなかったのかもしれない。 そう思えた出来事でした。 今は、このプロジェクトをファッションブランドとしてではなく、 「文化を再編集し、未来へつなぐための試み」として捉えています。
Vol.4|Wearable Heritage Project|構造としての継承 2
ー 工芸を「素材」ではなく「構造として扱う」 伝統工芸という言葉から、多くの場合、私たちは一つの素材や技術を思い浮かべます。 織物であれば織、染めであれば染め。それぞれが独立した領域として存在し、一つの完成された技術として受け継がれてきました。 着物のリメイクもまた、そうした文脈の中にあります。 既存の着物や帯を解体し、布に戻すことで新たな形へと作り替える。 そこでは主に、織や染といった繊維としての工芸が扱われます。 一方で、このプロジェクトでは、繊維に限らず、漆、組紐、水引、つまみ細工、陶芸など、複数の工芸技術を横断的に扱います。 それらを装飾として加えるのではなく、それぞれに役割を与えながら、一つのプロダクトとして設計していきます。 工芸を素材として扱うのではなく、構造として組み込んでいます。 この違いは、見た目の問題ではなく、仕事の生まれ方に関わります。 単一の素材として扱われるとき、工芸は一つの工程として完結します。その結果、技術が使われる場は限られていきます。 しかし、複数の工芸が構造の中で組み合わされるとき、そこには複数の工程が生まれ、複数の職人の関与が必要になります。 それぞれの技術が、一つのプロダクトの中で関係性を持ち、機能することで、新しい役割を持ち始めます。 多様な用途がひらかれることで、新しい仕事が生まれます。 だからこそ、工芸を一つの素材として消費するのではなく、構造の中で機能させる必要があります。 複数の工芸を横断するということは、単に多くの技術を使うということではありません。 それぞれの技術に新たな役割を与え、現代の文脈の中で再び機能させること。 その設計そのものが、継承の構造をつくることにつながります。 継承は、構造によって成立する。 その構造を、つくりたいと考えています。
Vol.3|Wearable Heritage Project|構造としての継承 1
ー 継承は「再利用」では起こらない 着物のリメイクや、いわゆる着物ドレスは、近年とても多く見られるようになりました。眠っていた着物に新たな形を与え、もう一度使えるものとして蘇らせる。 それは、とても美しい取り組みだと思います。資源を無駄にしないという意味で、サステナブルな選択であり、「着物」という文化の記憶を繋ぐ役割も担っていると思います。 ただ、その一方で、ひとつの問いが残ります。 「 それは、職人の次の仕事を生んでいるか」 リメイクは、すでに存在しているものを用います。 つまり、新たな織りや染め、新たな制作を必要としない場合が多い。そこには、新しい発注は生まれません。 構造として見ると、リメイクは「過去の資源を活かす行為」であり、「未来の生産を生む仕組み」とは異なります。 伝統工芸の継承を考えたとき、本当に必要なのは、 技術が使われ続けること。そして、それによって仕事が生まれ続けることです。 継承とは、保存ではなく、循環です。 技術が使われる ↓ 役割が拡張される ↓ 需要が生まれる ↓ 仕事が生まれる ↓ 担い手が育つ この流れが循環することで、はじめて次の世代へと手渡されていく。 その視点で見たとき、既存のものを再利用するだけでは、この循環は生まれません。 この問いに応えるかたちで、新たな制作を前提に、伝統工芸を現代に接続していきたい。 新しい用途の中で、技術が使われること。そこに新たな発注が生まれ、職人の仕事として成立すること。そして、その積み重ねが、次の担い手を育てていくこと。 リメイクが「過去を活かす行為」だとすれば、このプロジェクトが取り組んでいるのは、 未来に仕事をつくるための構造の設計です。 文化は、形を変えながら続いていきます。 そのときに問われるのは、何を残すかではなく、どのように続けるか。 継承は、構造によって成立する。 プロジェクトでは、その構造をつくりたいと考えています。