洋服をつくる仕事では、できるだけ具体的に指示を出します。
曖昧な指示では、良いものは作れません。
デザイン画を描き、
トワルを組み、
パターンを起こし、
付属品を選び、どう縫製するのか。
デザイナーが考えているものを、パタンナーや縫製をする人たちと共有し、できるだけ正確に形にしていく。
長く洋服の仕事をしてきた私にとって、それはごく当たり前のものづくりの方法でした。
ところが、伝統工芸の職人さんたちと一緒にものをづくり始めて、そのやり方では、何かが違うと感じるようになりました。
もちろん、こちらにもつくりたいもののイメージはあります。
でも、それを最初から細部まで決めて、
「こうしてください」
と伝えてしまったら、職人さんは私が考えたものを、その技術でただ再現する人になってしまう。
それでは、一緒につくる意味がないのではないか。
そんなふうに思うようになりました。
伝統工芸には、私が知らないことがたくさんあります。
素材の性質。
技法の特性。
長い時間をかけて培われてきた知識。
そして、日々その技術と向き合っている人にしか分からない感覚。
「この技法なら、こんなこともできますよ」
「それなら、こうしてみたらどうでしょう」
そんな職人さんからの提案の中に、思いもしなかった可能性がある。
だから最近は、最初から決めすぎないことを意識するようになりました。
もちろん、すべてを相手に任せるわけではありません。
自分が何をつくりたいのか。
何を大切にしたいのか。
どこへ向かいたいのか。
そこは伝える。
でも、その先のすべてを自分で決めてしまわない。
相手に委ねる部分を残しておく。
言い換えれば、ものづくりの中に「余白」をつくっておくということなのかもしれません。
その余白があると、自分とは違う視点が入ってきます。
そして、
「あ、それは考えていなかった」
というものが返ってくる。
そこから、最初に自分が思い描いていたものとは少し違う方向へ進むこともあります。
もちろん、良い方向の場合もあれば、そうではない場合もあります。
そして、前者なら、それは「ずれた」のではなく、ひとりでは行けなかった場所へ進んだということなのだと思います。
コラボレーションとは、違う経験を持つ人と人が出会い、お互いから返ってくるものによって、当初のプランより良いものが生まれていくプロセスではないか。
そのためには、自分の考えを伝えることと同じくらい、相手に委ねることも大切です。
指示しすぎれば、失われるものもある。
それは、相手の中にある、自分には見えていなかった可能性。
協業する者それぞれの視点や経験が交わることで初めて生まれる、まだ誰も想像していなかった何かなのだと思います。
すべてを決めない。
少しだけ余白を残して、相手に委ねてみる。
伝統工芸の職人さんたちとのものづくりを通して、私は今までとは少し違う「つくり方」を学び始めています。